リサーチフロント(先端研究領域)とは?
最先端の研究領域を的確に見いだす方法のひとつに、研究者間で交わされるコミュニケーションを対象とした分析手法があります。研究者のコミュニケーションは様々な形が取られますが、なかでも最新の成果が発表される論文の引用情報に基づく分析は有力な方法です。
論文の引用情報には、研究者が新たな研究成果を築くうえで基礎とした既知の成果や、それらの相互関係が反映されています。この引用パターンを分析すると、先端研究のコアとなる論文を導き出したり、強い関連性を有する論文同士をグループ化して最先端の研究領域を特定したりすることができます。以下の手順により導き出した先端研究領域を、クラリベイト・アナリティクスはリサーチフロントと呼んでいます。
共引用を利用したリサーチフロントの形成
リサーチフロントを同定する第一のステップは、科学全体を対象とする広範領域から、もれなく高被引用論文(Highly Cited Papers)を抽出することです。論文の発表後に他の論文から引用された回数を被引用数と呼びますが、クラリベイト・アナリティクスでは科学全体を22の研究分野に分け、それぞれの研究分野において被引用数が上位1%の論文を高被引用論文と定義しています。
一般的に被引用数は、論文発表から時間を経るほど高くなります。また研究分野ごとに被引用数の伸び方が異なります。その公平化を図るため、クラリベイト・アナリティクスでは、年ごとに各分野の上位1%となる被引用数のしきい値を定め、高被引用論文を特定しています。
第二のステップでは、「共引用」の関係から関連性の高い論文を特定し、高被引用論文をグループ化(クラスタリング)します。共引用とは、2つ以上の論文が、後に出版された論文の参考文献として同時に引用されることを指します。頻繁に共引用される論文は、概念的あるいは方法論的に顕著な関連性があることがわかっています。そこで共引用がある頻度以上で起きている論文群を特定しグループ化したものを一つの研究領域と見なし、これをリサーチフロントと呼んでいます。
リサーチフロント分析ではすべての研究分野、あるいはすべての文献を識別することはできません。しかし重要な研究が行われている領域や、研究コミュニティの注目を集めている領域を発見する方法として、非常に有効です。
リサーチフロントアワードとは?
リサーチフロントアワードは、今後飛躍的な発展が期待される先端研究領域を特定するとともに、その領域で世界をリードする日本の研究機関所属の研究者を広く社会に紹介することを目的としています。クラリベイト・アナリティクスが分類した22の学術分野において、最も高い頻度で引用されている上位1%の論文(高被引用論文)のうち、後に発表された論文と一緒に引用(共引用)されている論文を分析し、先端研究領域および受賞者の選出を行っています。
2016年 第4回リサーチフロントアワード 受賞者一覧
第4回リサーチフロントアワード 受賞者とその研究領域
材料科学/Materials Science
グラフェン-六方晶窒化ホウ素の電子的および光学的特性
物理学/Physics
確率的な熱力学とゆらぎの定理
工学/Engineering
流動力学のモデリング
化学/Chemistry
神経科学/Neuroscience
報酬シグナルとして働くドーパミンニューロン
硫化水素によるシグナル伝達
エーテルの触媒的クロスカップリング反応
*分野は、その領域の論文が掲載されたジャーナルの区分による。
【受賞者のコメント】
国立研究開発法人 物質・材料研究機構 渡邊 賢司氏
国立研究開発法人 物質・材料研究機構 谷口 尚氏
九州大学 安達 千波矢氏
東京大学 沙川 貴大氏
早稲田大学 滝沢 研二氏
東京大学 金井 求氏
北海道大学 松永 茂樹氏
北海道大学 吉野 達彦氏
東北大学 谷本 拓氏
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 木村 英雄氏
大阪大学 茶谷 直人氏
大阪大学 鳶巣 守氏
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2012年 第3回リサーチロントアワード 受賞者一覧
第3回リサーチフロントアワード 受賞者とその研究領域
化学/Chemistry
らせん構造制御を基盤とする機能性高分子の開発
地質学的な手法に基づき、19億年前の超大陸を復元し、北中国地塊の位置を推定
材料科学/Materials Science
1次元無機ナノ構造物質の探索・創製とその応用
植物ホルモン機能の発見によるストリゴラクトン研究の新展開
化学/Chemistry
炭素-水素結合切断を経る酸化的カップリングの新手法開発
自己組織化によるナノメートルスケールの構造・空間・機能の創出
金属ナノ粒子触媒を用いた液相化学水素貯蔵材料の開発
*分野は、その領域の論文が掲載されたジャーナルの区分による。
【受賞者のコメント】
「日本の科学研究が強い影響力をもち、先導的役割を果たしている最先端の分野の研究のひとつとして我々のこれまでの成果が認められたことを大変光栄に思います。今後も、インパクトの高い成果を発信できるように精力的に研究を進めていきたいと考えています。」
金沢大学 前田 勝浩 氏
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「I am honored to be chosen for the Clarivate Analytics Research Front 2012 Award. I am told that very few scientists attain such an exalted status. I consider this as a major achievement and recognition, as well as the reward for a lifetime of my hard work. This Award enthuses me to work further towards contributing to the scientific advancement for the benefit of the human society.」
高知大学 サントッシュ マダバワリヤー 氏(Dr. M. Santosh)
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「The ease in fabrication of ZnO and ZnS nanostructures together with their fascinating electronic and optical properties make them, along with nanotubes and graphenes, the most prospective nanomaterials of the 21st century which should find smart applications in many advanced technologies.」
(独)物質・材料研究機構 デミトリ ゴルバーグ 氏(Dr. Dmitri Golberg)
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「菌根共生シグナルとしてストリゴラクトンを単離してからのジェットコースター的展開の日々の中で、さらに今回、このような賞を戴けることを驚きと共に光栄に思っています。今後も、フロントランナーであり続けられるように努力していきたいと思います。」
大阪府立大学 秋山 康紀 氏
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最も普遍的な生物現象の一つである菌根形成に関与する化学因子を明らかにすることができ、科学の進歩に多少なりとも貢献できたことを喜んでおりました。今回、この基礎的研究を認めていただき、大学人として非常に名誉なことと嬉しく思っております。」
大阪府立大学 林 英雄 氏
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「ストリゴラクトン研究が、寄生植物から菌根菌へ、そして植物ホルモンへと発展し、その成果を認めて頂いたことに感謝致します。今後は基礎と応用の両面で研究を深化させたいと思います。」
宇都宮大学 米山 弘一 氏
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「医薬品や有機機能性材料などの精密合成において触媒的炭素結合形成反応は不可欠なツールの一つです。我々は、新しい効率的な環境調和型反応法の開発を目指して基礎的研究を行ってきましたが、最近の成果が認められうれしく思います。これまでに得られた知見を基に、応用面も視野に入れてさらに研究を展開していきたいと考えています。」
大阪大学 三浦 雅博 氏/佐藤 哲也 氏
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「たいへん栄誉ある賞をいただき、関係の皆様や共同研究者にまずは厚く御礼申し上げます。自己組織化の研究に20年以上取り組んでまいりましたが、その間、自己組織化の概念や有用性を拡げつつ、波及効果の大きな研究に育てることを第一の目標に掲げてまいりました。それだけに今回の受賞は喜びもひとしおです。今後、自己組織化の研究がリサーチフロントからリサーチフィールドへと大きく発展することを願っております。」
東京大学 藤田 誠氏
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「自己組織化で簡単にかつ精密に組み上がる美しいナノ構造体とその空間に秘められたユニークな現象に魅せられて、研究を続けて来ました。今回の受賞に感謝すると共に、これまでの知見をスマートな材料の開発に繋げて行きたいと考えています。」
東京工業大学 吉沢 道人 氏
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「新しい液相化学水素貯蔵材料の提案と、実現のための触媒に関する基礎的研究が認められて嬉しく思います。引き続き研究を進め、エネルギー・環境問題の解決に繋げていきたいと考えています。」
(独)産業技術総合研究所 徐 強 氏(Dr. Qiang Xu)
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「豊かで持続可能な社会を実現する上で、エネルギーの多様化は最も重要な課題の一つです。液相化学水素貯蔵材料に関連した、私共のナノ材料研究の成果を評価頂き感謝しております。今後も材料研究者として更なる展開を図りたいと考えています。」
(独)産業技術総合研究所 塩山 洋 氏
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2007年 第2回リサーチフロントアワード 受賞者一覧
第2回リサーチフロントアワード 受賞者とその研究領域
機能性らせん高分子の発見、設計と合成
自然免疫によるウイルス認識からインターフェロン産生にいたる経路の解明
新規磁性形状記憶合金の開発
酸化物磁性半導体のコンビナトリアル探索と室温強磁性の発見
鯉沼 秀臣氏
物質・材料研究機構、科学技術振興機構
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カーボンナノチューブ可溶化・機能化デザインへの戦略的なアプローチ
燃料電池のスルホン化ポリイミド系電解質膜の開発
臓器の動きに関する精度を高めた4次元放射線医療
ストペロフスカイト相転移の発見と地球の最下部マントルの研究
ビスマスペロブスカイトにおける強磁性強誘電体の探索
多機能性チオウレア触媒の設計と触媒的不斉付加反応への応用
2004年 第1回リサーチフロントアワード 受賞者一覧
第1回リサーチフロントアワード 受賞者とその研究領域
符号分割多重アクセスを用いる広帯域移動無線通信技術の研究開発
常染色体劣性若年性パーキンソン病の原因遺伝子の発見と機能解明
水野 美邦氏
順天堂大学
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服部 信孝氏
順天堂大学
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ロジウム触媒を用いた新しい触媒的不斉共役付加反応の開発
ヒトゲノム中最大の膜蛋白質ファミリーの基本構造の解明
抗体の超変異及びクラススイッチの制御分子 AID の発見
バイオポリマー系ナノ複合材料における階層構造の制御と機能設計
巨大ひずみ加工による超微細組織高性能金属材料の創製
DNA 傷害で誘導される癌抑制蛋白質 p53 のリン 酸化による活性化の発見と解明
世界各地に異常気象をもたらすインド洋の大気海洋相互作用現象の発見とその機構の解明
スピン三重項超伝導の発見と物性解明
異物代謝・酸素ストレス応答を制御する Nrf2-Keap1 系の発見
高等植物におけるリン酸リレー情報伝達とホルモン応答の分子基盤
新規ホルモン“グレリン( Ghrelin )”の発見とその生理的意義の解明