イノベーターの視点:テクノロジーが変える商標調査の世界

イノベーターの視点:テクノロジーが変える商標調査の世界
by CompuMark
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イノベーターの視点:テクノロジーが変える商標調査の世界

2019年10月10日

テクノロジーによって、組織によるブランドのプロモーション、保護方法など、ビジネスのあらゆる側面が変化していると言っても過言ではありません。クラウドコンピューティング、ソーシャルメディア、モバイルコンピューティング、人工知能(AI)が、新たなビジネスモデルや市場機会を急速に生み出し、それと同時に、ブランド権利者にとっての新たな課題や、そうした課題に応えるための新ソリューションももたらされています。

テクノロジーは商標の世界にどのような影響を与えているのでしょうか?またイノベーションによって、現代の世界的な商標脅威に対応できる強力な新ツールがどのように生み出されるのでしょうか?こうした疑問の答えを探るため、商標専用の画像認識技術を開発したTrademark Visionの創業者、サンドラ・モウ(Sandra Mau)氏に話を聞きました。Trademark Visionは、現在クラリベイト・アナリティクスの商標部門を担う、CompuMarkの一部門として次世代の商標調査ソリューション強化に取り組んでいます。

 

マーケティングチャネルが急増したことで、ブランド保護におけるテクノロジーの役割はどう変わりましたか?

モウ氏:現在、ブランドが活用可能なチャネルの増加に伴い、構造の分散が進んでいます。ブランド管理では、ブランドが与えるメッセージの管理や権利保護が中心となりますが、さまざまな新規・新興チャネルで情報が溢れているため、ブランドを人の手で管理することが不可能になりました。将来的には、今は想像もできないブランドのチャネル、戦略、戦術が当たり前になるかもしれません。最先端の人工知能(AI)であれ、詳細な情報に基づき迅速な意思決定をサポートするデータ収集・拡散管理ツールの改良にとどまるものであれ、テクノロジーはブランド保護に欠かせない存在となるでしょう。
オンラインでの大規模な分類や分析に対応できるAIや機械学習は、大きな役割を担うことになるでしょう。ただしその有用性は、利用可能なデータの量や品質、またテクノロジーをトレーニングする研究チームの業界知識やリソースの豊富さにかかっています。つまり、AIや機械学習を使ったツールを評価する際は、懐疑的になることが重要です。複数のチャネルにわたってブランドを保護するなど、具体的な問題に対応させるためには、その作業用に機械学習を調整する必要があります。オープンソースのテクノロジーをそのまま使えばいいわけではありません。

 

マーケティング分野では、ソーシャルメディアが重要になりました。ブランドにとってのメリットとデメリットを教えてください。

モウ氏:Instagram、Twitter、Facebookなどのソーシャルメディアプラットフォームによって、大勢のオーディエンスに働きかけることが遥かに容易かつ安価になり、ソーシャルネットワークのユーザーにブランドへの親近感を与えることが可能になりました。素晴らしいことです。

一方で、同じくソーシャルネットワークが原因で、ブランド側が管理できないマイナスの影響が瞬く間に広がることも考えられます。また、ソーシャルメディアプラットフォームは、許可なくブランドを使用したり、利益を得るために意図的にマーケットプレイスを出し抜こうとしたりする人も存在する、侵害が発生しやすい場所でもあります。こうした脅威を防ぐためには、絶えずソーシャルメディアプラットフォーム上でブランドを監視するというコミットメントが必要とされます。

膨大な時間が必要な人の手による監視作業をテクノロジーで自動化し、この問題に対応することができます。テクノロジーが進化を続ければ、ブランド側は、リアルタイムの通知や分析を通して、ソーシャルメディア上で発生し得るブランド脅威に速やかに対応することが可能になります。瞬時に意思決定を行うためには文脈やニュアンスの分析が不可欠であるため、AIを慎重にトレーニングすることが極めて重要になります。

こうした現実を背景に、一部の大手ブランドはソーシャルメディアから撤退しました。イギリスの化粧品会社であるLush、電気自動車会社のTesla、またイギリスのパブチェーンであるJD Witherspoonsは最近、ソーシャルメディアの使用を抑制または停止し、従来型のブランドエンゲージメント法を重視することを発表しました。

 

テクノロジーは新しい商標の開発や保護プロセスにどのような影響を与えますか?

モウ氏:テクノロジーによって、ブランド権利者はクリエイティブな方法でブランドを定義や表現することが可能になりました。たとえば2017年、世界経済の22%を占める欧州連合が、動画、動き、ホログラム、位置などのマルチメディア要素を含む商標や、音や匂いによる商標の保護を申請できる規則を制定しました。2019年には、英国知的財産庁もこの流れに倣い、東芝が同国初の動きの商標を、また、Googleが初のホログラム商標を登録したことを発表しました。

また、テクノロジーによって、こうした非伝統的商標の申請方法も簡素化されました。申請者は、書面や2Dの静止画像で商標を説明するのではなく、MP3形式のサウンドファイルやMP4のマルチメディアファイルをアップロードするだけで、登録を申請できるようになりました。

 

ブランド権利者や知的財産(IP)顧問弁護士が頭に入れておくべき、現代のテクノロジー情勢におけるベストプラクティスを教えてください。

モウ氏:テクノロジーの進歩のペースを考えると、ベストプラクティスはまだ固まっているとは言えません。しかし、法律事務所やブランド権利者にとって、テクノロジーのメリットと潜在的なデメリットを認識できるように、確かな戦略を策定しておくことが重要なのは明らかです。テクノロジーが日常業務に与える内外的な影響を考えておく必要があります。

テクノロジーは新規ブランドのクリアランス調査にも役立ちますが、クリアランス調査では、ドメイン名やソーシャルメディアなど、従来の商標登録に限らない幅広いチャネルを対象とすることが極めて重要です。ブランド保護でも同様です。そうした新チャネルを管理するためのリソースを用意したうえで、オンラインチャネルを中心とした知的財産権の監視、取り締まり、法的措置に対応できる包括的な戦略が必要です。

 

商標業界におけるテクノロジーの普及を、どのように見ていますか?

法律事務所や法務部門がテクノロジーの採用を進めていることで、電子書類の保存や判例管理システムから、さらに革新的なIP保護や要約サービスに至る業務が、大幅に効率化されています。演算能力の進歩もあり、法律事務所では、諮問プロセスに高度なアナリティクスや自動化を取り入れることを検討しています。

商標業界にインテリジェントなAIソリューションを取り入れることで、クライアントと弁護士のより良い関係性が構築されます。法律事務所が効率化に向けて大きく前進すれば、高レベルのサービスや相手に応じた助言を提供することが可能になり、予算や時間的制限が増える中でも、効果的に対処できるようになります。

 

新しいテクノロジーによって、特許や商標にかかわる当局(PTO)の業務はどのように変化していますか?

モウ氏:知的財産(IP)権を供与するPTOは、ブランド保護に極めて重要な役割を担っています。世界中の知的財産当局がより良い方法や新興のテクノロジーを取り入れている一方で、商標専門家にもより実践的で有用な情報を提供するための取り組みが進行しています。

最近では、2019年8月、シンガポールの知的財産庁(IPOS)が、世界初の商標登録モバイルアプリ「IPOS Go」を発表しました。このアプリによって、ブランド権利者は10分に満たない簡単な手順で、モバイルデバイスから商標保護を申請することが可能になりました。またこのアプリから、登録ステータスの追跡、最新情報の確認、ファイルの更新を外出先でも行うことができます。近々、他のPTOからも同様の革新的なテクノロジーが登場することが予想されます。

また、画像認識の分野にも素晴らしい例があります。多くのPTOが、商標や意匠の調査にAIベースの画像認識テクノロジーを検討する段階から、実際に取り入れる段階に進んでいます。インデックスや検索機能が強化されたことによる莫大なメリットを活用し、将来に向けて各種サービスの提供方法が根本から変化しています。相対検索 の精度は、さらに上がるでしょう。類似度に基づき商標申請が却下されるかどうかはともかく、画像認識によって、画像商標保護における不確定要素や透明性の欠如がある程度改善されるでしょう。テクノロジーがさらに進歩すればこの傾向が続き、PTOの透明性や詳細度はさらに向上することが予想されます。

 

商標業界にテクノロジーの波が訪れている主な理由を教えてください。

モウ氏:商標業界は極めて複雑な世界です。当局、法律関連部門、ブランド権利者など全ての関係者が、関連性はあるものの、目的が微妙に異なる全く別個の存在として、協力を図っています。PTOが新たなテクノロジーを取り入れれば、IP弁護士やブランド権利者もさらにテクノロジーを活用するようになるでしょう。その結果、精度や効率性は劇的に向上します。そして、商標専門家はさらに優れた助言を提供できるようになり、サービスレベルが向上します。

知的財産権の分野では主観的判断が極めて重要な部分であるため、商標関連では今後も人間の介入が重要であることに変わりはありません。ただし、商標専門家はこれまでよりもっと実践的なデータに基づいて意思決定を行うことができます。その副次的なメリットとして、ブランド権利者は、プロセスの早い段階で潜在的な問題を特定し互いに協力して係争を解決することで、知らずに他者のIP権を侵害する状況を回避できるようになるため、権利者同士の協業が増えるかもしれません。

 

製品がこれほど急速に進化する中、商標専門家は未来を予想するためにテクノロジーをどう活用できますか?

モウ氏:現在では、データを分析するだけでIP権分野の傾向を確認することができます。最近のIP権登録申請を見れば、将来的に当たり前になるかもしれないテクノロジーが分かります。人々は日々、本当に素晴らしいイノベーションを起こしています。

さらに革新的なテクノロジーを使ってこのデータを分析すれば、傾向だけでなく、各種テクノロジーを融合させ、新たなビジネス機会を生み出すことができるとも考えています。これが、私たちが向かっている未来なのかもしれません。進歩や融合が可能な部分を見つけるために、テクノロジーを活用するのです。最先端のイノベーター同士の協業によってビジョンが発展し、各種業界が直面している複雑な問題が解決されるとすれば、素晴らしいことです。

 

商標業界がテクノロジー関連で直面している最大の課題は何ですか?

モウ氏:変化です。明らかなメリットがあると分かっていても、企業や法律事務所にとって、適応や管理を求められる変化は勇気が要ります。資本とトレーニングへの投資が必要になります。新興のテクノロジーでは、早期に取り入れる組織よりも、そのテクノロジーがメインストリーム化してから取り入れる慎重な組織の方が多いことが一般的です。

テクノロジーの進歩とは、新規参入者や新たな手法によって業界が脅かされやすくなることを意味します。商標業界も例外ではありません。しかし、適切なテクノロジーを取り入れた商標専門家は、情勢が混乱する中でも優れたポジションを確保し、クライアントや自社により大きな価値を提供することができるでしょう。

 

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