現代天文学最前線!宇宙創成とその未来に迫る

テキサス大学教授、マックス・プランク宇宙物理学研究所所長 小松英一郎氏 × トムソン・ロイター 三輪唆矢佳

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テキサス大学教授、マックス・プランク宇宙物理学研究所所長 小松英一郎氏 × トムソン・ロイター 三輪唆矢佳テキサス大学教授、マックス・プランク宇宙物理学研究所所長 小松英一郎氏 × トムソン・ロイター 三輪唆矢佳対談 現代天文学最前線!宇宙創成とその未来に迫る

宇宙論次なる10年!立ちはだかる暗黒エネルギーと宇宙加速膨張の謎

観測技術と科学の進歩に伴い、謎に満ちた宇宙が解き明かされつつある。宇宙物理学者たちはこの時代を“宇宙論の黄金時代(Golden Age of Cosmology)”と表現。宇宙膨張や正体不明の“暗黒エネルギー”など大きな壁が立ちふさがる一方で、ブレイクスルーが起こりうる非常にエキサイティングな状況にあるという。そんな現代宇宙論分野を牽引するのが、37才にしてテキサス大学教授兼マックス・プランク宇宙物理学研究所所長を務める日本人宇宙物理学者、小松英一郎教授だ。小松氏が参画したWMAPプロジェクト(宇宙マイクロ波背景放射観測衛星)は、宇宙の年齢が137億5000万歳であることや、 宇宙の組成の73%がダークエネルギー、23%がダークマター、4%が通常物質であることなど、宇宙を正確に理解するために重要な事実を次々と発見。その研究成果をまとめた論文は、トムソン・ロイターが発表する2011年度の最多引用論文1位に輝いた。氏の論文は、2007年、2009年時にもそれぞれ世界一の最多引用論文に選ばれており、宇宙研究に多大なインパクトを与え続けていることが分かる。2012年夏にマックス・プランク宇宙物理学研究所へと拠点を移し、さらに宇宙論を探求し続ける小松氏に、これまでの軌跡や次なる研究主題について聞いた。

—先生の観測的宇宙論に関する論文は、2011年度の論文の中で被引用数564回と、世界一引用数の多い論文に選ばれました。また、過去にも2回最多引用論文を執筆されていらっしゃいます。34才でテキサス大学宇宙論センターの初代所長になり、翌年テキサス大学教授。2012年よりマックス・プランク宇宙物理学研究所所長就任とキャリアを積み重ねてきた先生が、どのような研究人生を送ってきたのかお聞かせください。

WMAP space craft

小松氏…僕が天文学者を志したのは小学校5年生の頃、父に買い与えられた天文学の図鑑に夢中になったことが始まりでした。天体に惹かれるまま大学進学の時期を迎え、高校の先生に天文学が学びたいと相談したところ、東京大学、京都大学、東北大学だけだと言われて、当時唯一入れそうだった東北大を選びました。結果的にはそれがよかった。東北大には全国でも数少ない天文、宇宙物理の総合教育があり、宇宙物理学者の二間瀬敏史教授に指導してもらうことができたからです。天文学の勉強に励む中で僕は宇宙全体を扱う“宇宙論”を研究するのが一番面白そうだと考えるようになりました。しかし、宇宙背景放射を見れば宇宙の様々なことが分かるというのが認識され始めたのに、日本では理論研究ばかり盛んで実験が全くされていませんでした。そこで僕は研究の場を求めて海外へ渡る決意をしたのです。

指導教官の後押しを受け、プリンストン大学へ

—海外へ出て行く決断はご自分で?

小松氏…ええ、実験できる場が日本にはないので、じゃあ海外に行こうというシンプルな動機でした。その意向を二間瀬先生に伝えたところ、プリンストン大学でMAP(Microwave Anisotropy Probe)という衛星の計画があるとアドバイスをいただきました。実は、当初僕は宇宙背景放射の理論研究が盛んだったカリフォルニア大学バークレー校に行きたかったんです。しかし、当時第一線で活躍していた研究者たちがバークレーからいなくなってしまい、二間瀬先生や現在名古屋大教授の日本の宇宙背景放射研究の第一人者、杉山直教授がプリンストンに推薦状を書いてくださいました。さらに、東大の須藤靖教授はプリンストンで僕の指導教官となったDavid Spergelをよくご存知で、先生もプリンストンがいいと推薦状を書いてくださったんです。3人の後押しがあったので決断しました。自分の思いだけではどこに行けば良いかわからなかったし、プリンストンでなかったら僕の人生は違うものになっていたでしょう。この時のことは今でも感謝しています。

—一般的に、大学の指導教官はそのように親身になってくださるものなんですか。

小松氏…人によると思います。僕も周りに色々と聞いてみたのですが、「海外に…」と言っただけで、とんでもない!と反対された人もいるようですね。学生さんの中には、指導教官を手伝う形で研究を進める人もいます。僕の場合は、二間瀬先生が比較的放任主義といいますか、なんでも自分でやれというタイプの方だったので。

—指導教官が「日本に残れ」というのは、キャリアパスが無くなることを心配しての親心とも聞きますが……

小松氏

小松氏…指導する立場からはそんなことはないですが、学生本人が心配なのでしょう。天文や物理の世界では、日本ではドクターをとったら日本学術振興会の博士研究員になるのが王道です。それ以外の選択肢をあまり考えない。未だに海外の大学や研究所に行くのは日本学術振興会が取れなかったらという考え方をしている人もいます。しかし実際は海外の方が門戸が広いし、研究のレベルも場所によっては非常に高い。日本の東大、京大、東北大レベルの大学はアメリカにいくつもある。一方で、海外にいく学生の数が少なくなっている理由は、単に今の若者にアグレッシブさが足りないのではなく、僕の頃のようにアメリカに行かなければどうしようもないという環境ではないからとも言えます。東京大学のKavli IPMUのように整った環境で、わざわざ海外にいかなくても研究できると学生さんが思ったとしても間違いではない。それはあながち悪いことではなく、半分喜ぶところかもしれません。それでも僕は世界を見たかった。武者修行みたいな感じで、ひとまわり、ふたまわり大きくなって日本に帰ってくる人がいてもいいと思います。

海外で研究するということ

—先生の渡米はまさに武者修行だったのですね。「研究という志を一本もっていかないと心が折れる」ともおっしゃっていました。

小松氏…海外にいけば絶対に成功するかといったら、当然そんなことはありません。むしろ、「これがやりたい」という強い意志がないと難しいでしょう。もちろん日本でも、しっかりと志を持っていないと研究者として生きていくのは大変です。ただ、日本の方が楽だからという気持ちで進路を決断して欲しくない。人間、多少の苦労をしないと分からないことが必ずあると思うのです。

三輪唆矢佳

—先生は1999年にプリンストン大学に行かれて、その4年後、テキサス大学に助教授として移られています。

小松氏…実はプリンストン大学での研究を終えた時点で日本に帰るつもりでした。それが妻の希望だと思っていたからです。でも、意外にも彼女がアメリカでもいいと言ってくれた。もともと指導教官のDavid Spergelには残れといわれていて、ある日、まだ帰る気か?と聞かれたので、状況が変わったことを伝えると、数ヶ月後にテキサス大学へ移ることが決まっていました。

—えっ? ご自分では何もされていないのに?

小松氏…ええ、そういうこともあるんだと驚きました。大変珍しいケースだと思いますが、テキサス大学が宇宙論の研究者を助教授に欲しくてDavidに相談していたそうです。彼は僕を推薦したかったのに、僕が日本に帰るつもりだったので推薦できないでいた。その後はあれよあれよという間に決まりました。MAPをやりたくてアメリカに来て、テキサス大学に行っても同じ研究が続けられるので僕にとっては願ったり叶ったりでした。テキサス大学では自分の学生やポスドクも集められて、さらに研究の幅を広げることもできましたしね。

—アメリカで、外国人というハンディはありましたか?

小松氏…いえ、それは全くないです。もちろん、大学で学生に学問を教える以上、ある程度の語学力はないと厳しいですが、もし授業をする必要のない研究所にいくならば英語力さえそんなに問われません。なにより、アメリカという国は年齢も性別も人種も関係ない。目上の人に従わなければということもなく、上から下まで同レベルで議論し、若手でもどんどん教授に抜擢されていきます。そういうところはやはり自由の国、見習わなければいけないなと思います。

テキサス大学 WMAPプロジェクトで引用世界一に

—テキサス大学の宇宙論センター初代所長ということは、センターの構想もご自分で練られ、設立や研究の資金もご自分で取ってこられたのですか?

小松氏…ええ。まずは大学から資金を貰い、それを元に色々なところに応募していきました。

—その一方で、ご自分で論文も書かれる。

小松氏…その論文を書きたいから研究し、研究したいからセンターを作る。そのために予算が必要だった。やりたいことのために資金を取りにいくのは当然です。

The all-sky image of temperatures of the cosmic microwave background taken by WMAP

The all-sky image of temperatures of the cosmic microwave background taken by WMAP

—WMAPチームには、世界一の被引用数を誇る論文が3回ありますね。そのうち先生が筆頭著者の論文が2回。先生の論文が特に被引用数が高いのはなぜですか?

小松氏…実験なのでデータを取るのですが、その過程でも、どうやって実験をし、どうやって測定をしたのか、解析の方法を記した論文を発表します。それを踏まえ、「このデータは何を意味しているのか」を定義するのが僕の役割だったのです。いわゆる結論の部分であり、一番読まれる論文ですので被引用数が高くなったのでしょう。WMAPプロジェクトでは2年毎のペースで区切りの論文を発表していったのですが、1・3年目は僕の指導教官だったDavid Spergelが書き、5年目から任せてもらえました。指示を受けたときは素直に嬉しかった。それと同時に責任を感じて、このとき、僕は人生で初めて「引用」というものを意識しました。David Spergelが論文を書いていた1年と3年目がもの凄い数の引用があったので、自分が書くことによって引用数が減ってしまったらどうしようと。若手の僕が書くだけで周囲の目は変わるし、相当のプレッシャーでした。ですから、そういう意味では1位になって本当に良かったと思いました。

Web of Science Core Collection で見る小松氏の論文。2012年7月時点。

Web of Science Core Collection で見る小松氏の論文。2012年7月時点。

良い論文を書くために

—ところで、先生の論文自体も引用文献がかなりあります。例えば、2011年の論文のリファレンス数は414報、1930年代と深いところまで遡っています。

小松氏…論文にもよりますが、本当にオリジナルな仕事を最初にやった人は出来るだけ引くようにしています。常識化した知識に関しては教科書なり、レビュー論文なりを引きますが、教科書化されている知識であっても対象となる論文が少ない場合はできるだけすべて引くようにしています。僕の場合、学生に読ませるという立場でも論文を書いているんです。僕の研究室にくる学生にまずそれを読んでもらえれば、どんなことを勉強すればいいのかが分かるシステムになっている。オリジナルの論文を引用しておけば、これを読んでおけばいいのだと彼らにも分かります。論文ひとつで研究の教科書とまではいきませんが、それに近いものになるように書いているつもりです。

—なるほど!研究者にとって、論文にはそういった活用法もあるのですね。ところで、英語で論文を書くのは苦手な日本人が多いと思いますが、先生の中では論文を書く英語が確立されているのですか?

小松氏…確立しています。論文の英語は会話のレベルとはまったく関係ない。論文をどれだけ読んだかに比例すると思います。他の論文を読んでいいフレーズだと思ったら真似してもいいんです。僕も院生になって最初の論文はそうやって書きました。

—その最初に書かれた論文が『Physical Review』誌に掲載されました。先生から論文の書き方を学びたいという学生も多いのでは?

小松氏…僕は聞かれたらなんでも教えますし、論文の書き方はHPにも載せています。学生には、まずこれを何度も読んでから書いてみろと。そして最初は直しまくりますね。ネイティブスピーカーだからといって論文が上手に書ける訳でもありません。論文の書き方は慣れが重要。こう書いたら直されると体に叩き込む。何度も同じ修正をされると段々分かってくるでしょう。教えるのは大変な作業で、非常に時間がかかります。

後進を育てる

—小松先生が出逢った指導教官の方々が素晴らしかったように、先生の下で学べる学生さんも幸せだと思います。

小松氏…僕は本当に恵まれていたと思います。研究を志す学生にとって指導教官の存在は非常に大きい。大学は自分で決めますが、その大学に気のあう先生がいるかいないかはほぼ運です。大学院生活は長いので、もし合わなければ早い段階で教授や学部、大学をも変えることを考えた方がいい。それは教える僕の立場からも言えることで、どうしても出来ない学生には、研究に向いていないから他の道を探しなさいと伝える。その子の人生が掛かっているわけですから芽がでないことをずっとやっていてもしょうがないと思うのです。

—その学生さんがもの凄くその研究が好きでも?

小松氏…それは非常に大事なポイントです。研究や論文が苦手でも天文学が好きなんです、という熱意のある子はなんとかしてあげたいと思う。研究は忍耐です。いい研究ができるかどうかも運が大きく、あとはただ頑張るしかない。だから、どんなにしんどくても頑張り抜けるならなんとかなる。僕が最初に学生に聞くのは天文が好きか、です。興味があれば続けていける。だから、好きかどうか分からなくなったという子には潔く他の道を紹介します。出来ないけど好きという子には、その子に合うものをとことん一緒に真剣に探します。

これからの研究

—その「好き」を追求されて、今年の夏からマックス・プランク研究所に移られました。今後の研究課題について教えてください。

A drawing of the Hobby-Eberly Telescope

A drawing of the Hobby-Eberly Telescope

小松氏…宇宙背景放射の研究(WMAP)は一段落しました。今は、ヨーロッパがプランクという衛生を打ち上げていて、そのデータが来年出てきます。WMAPより精度のいい観測なので、WMAPで培った研究を活かして色々と面白いことをやりたいと思っています。しかし、そのほか今後やっていきたいことはガラリと変わります。宇宙には正体不明の暗黒エネルギーや暗黒物質というものがある。これは何なのか、ということにいかざるを得ないわけです。暗黒エネルギーは宇宙を加速膨張させているんですが、我々は重力って引き合うものだと教えられてきたじゃないですか。その論理からいくと、宇宙膨張は遅くならなければいけないのです。しかし、宇宙膨張は速くなってきている。これは、リンゴを投げて、普通は落ちてこなければいけないのに、どんどん上に上がっていく状態と同じです。宇宙では理解不能なことが起こっている。では何がリンゴを上に上げているのか、を分かろうするには、宇宙の膨張がどれくらい速くなっているかを調べるのが一番手っとり早い。それを調べるには、銀河までの距離を正確に測定すればいい。そのための新たな実験として“Hobby-Eberly Telescope Dark Energy Experiment”に取り組んでいます。テキサス大学が持っている10メートルの望遠鏡“ホビー・エバリー望遠鏡”を使い、100億光年くらいの圏内にある銀河までの距離を測定し、宇宙がどのくらいの速さで膨張しているのかを探る実験です。

—大変興味深いです。今、どのくらい進んでいるのですか?

小松氏…ここ2年くらいで予備的なデータを取り、予測を立て、これからまさに観測を開始しようという段階です。上手くいけば、暗黒エネルギーが時間とともにどのように変化するかが解明できます。単位体積あたりの暗黒エネルギ−の量、つまり暗黒エネルギーの密度は時間がたっても変わらないというのが現時点での見解ですが、僕は、あらゆるエネルギーというのは時間に対して絶対に変化するものだと思う。この時間軸の中の変化を見つけるのが僕の仕事です。これからの10年間は、銀河までの距離を測定することに研究主題を移し、追求していきたいと考えています。暗黒エネルギーが時間とともに変わることが証明されれば、大きなブレイクスルーになるでしょう。しかし、やはり時間とともに変わっていないようだという結果になったら頭を抱えるしかない。ちなみに、この実験の拠点はテキサス大学なんですが、僕はマックス・プランク研究所に移ってもこの研究を続けますので、テキサス大学とマックス・プランク研究所との共同研究ということになります。

研究と論文・引用の数値について

—とても夢のあるお話です。この研究により、宇宙論の大きなチャレンジの突破口が開けることを祈っています。少し現実的な話に戻りますが、マックス・プランク研究所所長となり、研究以外に評価やプロジェクト管理などの仕事も増えるかと思います。その際に被引用数などの客観的数値を活用することに関しては、どのようにお考えですか?

小松氏…正直、研究者の中には数字ばかり気にする人がいますが、僕は研究者側が積極的に被引用数を使って宣伝するのは少し違和感があります。もちろん仕事を数値化してみたいという欲望は誰しもがあると思います。自分でよかれと思って研究していても、独りよがりになっていないか、ちゃんと意味のある論文が書けているかと不安になり、周囲の評価を求めたくなる。ただし、引用数が多いからといって人が評価してくれているとは限らない。研究者としては、自分がやってきた業績の内容で勝負すべきで、数値は、周りが「確かにこの人が言う通りこの仕事はインパクトがあるようだ」という参考にすればいい。まったくの第3者が客観的に誰かを評価したいときや研究評価に使うには有効だと思います。

—数値に関してですが、こちらは機関別に出した論文数の推移です。プリンストン大学、テキサス大学、東京大学、マックス・プランク研究所の比較です。

宇宙研究・宇宙物理学分野の論文数の比較。マックス・プランク、プリンストン大学、テキサス大学オースティン、東京大学 出典:InCites

宇宙研究・宇宙物理学分野の論文数の比較。マックス・プランク、プリンストン大学、テキサス大学オースティン、東京大学 出典:InCites

小松氏…プリンストン大学は低いですが、これは人の数が少ないからでしょう。論文数は人の数の違いが歴然と出ますからね。テキサス大学は下落傾向か。確かに昔の方がよかった気がするな。組織や機関で見ると個人が薄まって、もっとグローバルな見方ができるので面白いですね。個々の能力はもとより、国の戦略なども見えてくる。

—管理する立場としては、その研究機関の引用数は気になりますか?

小松氏…気になりますね。組織としてなら間違いなく引用数が多い方がいいですから。下がったら、なにがあるのかと考えてしまう。もう少し政治的な活用の仕方になるというか、僕は、研究者の質が落ちたと言うより、質は同じなのにファンディングがカットされているからだろうという見方をします。ドイツの場合だと、マックス・プランクVSハーバードというのが政治家は好きなのですが、マックス・プランクはハーバードの予算の3分の1しかないんです。それで勝っていると、「いいサイエンスをするのに必ずしもお金が必要じゃない」という言い方をマックス・プランクはします。

共同研究のネットワーキングをどうつくるか

—資金とともに、良い研究には良いネットワークが欠かせないと思います。Web of Science Core Collection の無料ツールResearcherIDの活用法として、研究者のコラボレーションネットワークを見ることも出来ます。もちろんご自分の共著者はお分かりでしょうが、他人の研究者の共著状況や繋がりも分かる。

小松氏…なるほど、これは興味深いですね

—例えば先生の論文データを国別に分けてみると、先生はUSにいらっしゃるので共著もUSが断トツ。次に、日本、カナダ、イタリアと続きます。これを機関別に分けることもできますし、ご自分の論文がどこの誰に引用されているかなども調べられます。その一覧がこちらですが、パッと見てご存知の方はいらっしゃいますか?

小松氏…全員知っています。それぞれの方がどんな研究をしているかも分かっています。

ResearcherIDによる小松氏の共著ネットワークの国別グラフ

ResearcherIDによる小松氏の共著ネットワークの国別グラフ

ResearcherIDによる小松氏の共著ネットワークの著者名別グラフ

ResearcherIDによる小松氏の共著ネットワークの著者名別グラフ

—お知り合いの研究者からの引用がほとんどということは、やはり横の繋がりが大事なんですね。

小松氏…それは非常に大事ですよ。僕の分野に関して言えば、おそらく日本人がフラストレーションを感じているのは、西洋人が内輪でしか引用しないということです。それは、単純に日本人の仕事を知らないから。関連する論文数が莫大なので、昔のように業界の動向をすべて知るなんて不可能。学会で話を聞いたり、直接会話をすることで、あ、この人は面白いと。そして、論文を読んでみよう、引用しようとなるわけです。だから、もの凄く優れた研究でない限り、日本からの仕事はなかなか引用されない傾向にあります。日本は日本で、同じように日本人の仕事を引用する傾向があるんですけど、それは仕方ないですね、人間がやっていることですから。僕が重要な論文を書くときには、僕のところに「俺の論文も引け」、「私のも」、とあちこちから連絡が来るんです。言ってもらえると、確かにこれは引くべきでしたとなる。意思表示した方がいいんです。日本人はそういうことが凄く苦手ですよね。いい仕事していて、広く知ってもらいたかったら、どんどん積極的に宣伝しなくては。そのコミュニティーに入れるか入れないかで引用数は変わります。国際的な地位を確立した先生方は別として、学生さんやポスドク、助教授がそこまで辿りつくのはなかなか大変です。でも、大発見をしないと世界的に認知されないわけではなく、地道にいい仕事をしていて、それが知れ渡りさえすれば良いのです。

僕は学生さんによく、「ひとつ論文を書いたらそれを持って世界を回れ」と言っています。逆にいうと、自信をもって発表できないような論文なら最初から書くなと。それから、学生さんが陥りやすい罠は論文の続きを書きたくなることですね。でも続きは続きでしかない。どうしてもおまけ的な論文になりがちです。そんなインパクトのない論文を書いている暇があったら、この論文のアピールをしてインパクトを増やしなさい。そうすることで知り合いも増えるし、新しいアイデアも生まれてくる。人と議論することはやはり何より重要です。

別の教授も同じようなことを仰っていました。Web of Science Core Collection で関連論文を探したり研究の傾向を見ることはできる。しかし、自ら外に出て人脈を広げることでこそ、新しい研究は生まれるのだと。

小松氏…その通りです。むしろ論文に書かれていることはその時点で最先端じゃないですから。

引用から紐解く研究の広がり

—大変勉強になります。こちらは、先生の論文が引用されている分野別の一覧です。もちろん断トツは天文。しかし、そのほか光学、数学などにも引用があります。

小松氏…数学にも引用されているんですね。化学にも!統計は何に引いたのでしょう? これは面白い。まったく分野が異なる人がなぜ引いてくれたんだろうと、単純に見たくなります。今後の研究のヒントになるかもしれない。例えばこの統計の論文を検索することはできるのですか?

Web of Science Core Collection を使うことで、どの分野に引用されているかが分かる

Web of Science Core Collection を使うことで、どの分野に引用されているかが分かる

—はい、この検索画面からワンクリックで検索できます。所属機関が契約していればその論文にリンクがあり、全文読むことも出来ます。こういうデータはどのように先生の研究に活きますか?

小松氏…やはり研究のコラボレーションでしょう。数学的なことなど他分野に及ぶ部分は非常に興味深いです。

—天文の中で、他分野と絡む融合領域の研究の割合はどのくらいあるのですか?

小松氏…そんなに多くはないですが、それが起こったときはハイインパクトペーパーが書けます。例えば、統計学では常識になっていて、今では誰も見向きもしないような10年前のテクノロジーが、僕らにとってはもの凄く役に立つことがあるんです。統計の人とは言語が違うのでコミュニケーションはお互い大変なんですが、よくよく聞いてみるともの凄く役に立つことをやっていたりする。10年前に彼らが培ったテクノロジーを僕らが有り難がって使っていると、そんな古いことをしていてどうするんだ、オレたちはもっと先進的な手法で上手く出来るぞと教えてくれる。そういう(他の分野の)情報を上手く取り入れられたら研究が飛躍的に延びる可能性がある。そういうところに興味がありますね。

—そのようなコラボレーションはこれまでも積極的に進めていたのですか?

小松氏…WMAPの初年度の解析をするときに、ちょうどその頃統計分野から天文分野に輸入されてきた方法を使いました。パラメーターが6~7個あり、暗黒物質や暗黒エネルギーの密度など決める数がたくさんあるので非常に作業が大変だったのです。当時、その解決方法が統計分野で既に確立されており、不可能だった解析が出来るようになりました。

—どのような経緯でその解析を導入したのですか?

小松氏…宇宙論をやっていた仲間の1人がたまたま気付いて、こういうのがあるよと論文に書いたのです。それに皆が飛びついた。Web of Science Core Collection を使えば、もっと積極的に情報を取れそうですね。統計学の中でも天文学と重なる研究をしている人を探して情報を取ったり。一番手っとり早いのは僕の論文を引用している統計学の人の論文を読むことでしょう。僕の論文を引用しているということは基本的に僕の研究を知っている。その上で、俺たちはもっと上手くできるぞと書いていたり、この方法が使えるという情報もあるでしょうから。

—Web of Science Core Collection は分野を超えた繋がりに有効ということですね。

小松氏…ええ、うちの業界だけであれば、今広く使われている、我々の業界に特化したデータベースで十分ですが、他分野との交流となると使えないので。我々に取ってWeb of Science Core Collection は、まさにマッチメイキングというところでしょうか。以前、ヒューストンの統計学の研究者が突然電話をかけてきてくれて、コラボレーション前提で話したのですが結局上手くいきませんでした。統計学者であれば誰でもいいというわけではなく、互いに興味があっても上手くいかないこともある。ですが、僕の論文を引いている人は、既にその問題について真剣に考えているわけで、少なくとも接点があるはずです。フィルターをかけるという意味で有効ですね。我々は、常に新しいアイデアを探しているので、そのとっかかりになりそうです。

—そこから新たな共同研究でブレイクスルーが生まれたら、私どもも大変嬉しいです。ResearcherIDでは、グーグルマップ上で先生の論文を引用している国や地域も調べることができます。先生の論文が他分野で引用された場合にアラートを飛ばす設定もできるので、忙しい時期でもタイムリーに最新情報をチェックできます。

小松氏…なるほど、エリアだけじゃなく個人も特定できるんですね。こういう情報もいいですね。論文を読んでみよう、連絡してみようという気持ちになる。自分の研究が知らない所で及ぼしている影響が分かるのは面白い。アラートもぜひ活用したいですね。探しに行く時間の節約になりますし、アイデアがひらめくきっかけにもなりそうです。

ResearcherIDのマップ機能

ResearcherIDのマップ機能

—ご活用いただけたら嬉しいです。いよいよ次の10年が本格始動ですがマックス・プランクは楽しみですか?

小松氏…責任が重くなるので、僕が行って先ほどのような機関としての評価が下がってしまったらという不安もありますが、新たな環境で研究に取り組めることは楽しみです。

—ハードルは必要に応じて常に変わっていくんですね。最後に先生のように好きな研究に邁進し、成功するために心がけることはなんですか?

小松氏…知りたいことをハッキリさせること。知りたい気持ちが原動力となり、誰に付けばいいのか、どこへいけばいのか、そのために必要なことは……と自然と考えて動くものです。あとは、好きな研究をし続けたいという確固たる気持ちがあればいい。好きであればどんな困難があっても頑張り続けられると僕は思います。

—どうもありがとうございます! 今後も益々のご活躍を心より応援しております。

(2012年9月掲載)


小松 英一郎(こまつ・えいいちろう)氏

プロフィール
1999年 東北大学大学院理学研究科天文学専攻博士課程前期修了
2001年 東北大学大学院理学研究科天文学専攻博士課程後期修了
2001年-2003年 プリンストン大学博士研究員(WMAPフェロー)
2003年-2008年 テキサス大学天文学科助教授
2008年-2010年 テキサス大学天文学科准教授
2010年-2012年 テキサス大学天文学科教授
2009年-2012年 テキサス宇宙論センター所長
2012年8月より マックスプランク宇宙物理学研究所所長
主な受賞歴
2004年 日本天文学会研究奨励賞
2005年 アルフレッド・スローン財団スローンフェロー
2006年 東北大学森田記念賞
2008年 国際純粋・応用物理学会若手物理学者賞
2010年 西宮湯川記念賞
2012年 グルーバー宇宙論賞
英文CVはこちら