21世紀を支える光触媒技術。広がる応用に期待

東京理科大学 学長 藤嶋 昭 氏 × トムソン・ロイター アナリスト デービッド・ペンドルベリー

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東京理科大学 学長 藤嶋 昭 氏 × トムソン・ロイター アナリスト デービッド・ペンドルベリー東京理科大学 学長 藤嶋 昭 氏 × トムソン・ロイター アナリスト デービッド・ペンドルベリー対談 21世紀を支える光触媒技術。広がる応用に期待

燃料生成や水浄化、がん治療まで。多様な可能性を秘める光触媒技術

「環境の時代」と言われる21世紀。私たちは、地球温暖化や資源枯渇、大気汚染や水質汚染など、多くの問題を抱えている。そんな中、注目を集めているのが光触媒技術だ。光触媒は「環境浄化技術」であり、太陽光のエネルギーを使用して空気や水を浄化したり、インフルエンザなどの殺菌・抗菌、クリーンな水素燃料を生み出したりと多様な可能性を秘めている。そんな光触媒分野において常に世界をリードしてきたのが藤嶋 昭氏だ。
藤嶋氏は大学院生時代に、酸化チタンに光をあてると水が分解する現象を発見した。以来、半世紀に渡り、光触媒の基礎・応用研究に挑み続けている。2013年4月には、光触媒の国際的な研究拠点として「光触媒国際研究センター」をオープンさせ、ますます実用的な環境浄化総合システムの構築をめざす藤嶋氏は、被引用数6000回以上と稀に見るインパクトを持った論文の著者でもあり、2012年『トムソン・ロイター引用栄誉賞(以下、引用栄誉賞)』を受賞した。引用の観点からも一流の科学者であることが証明された光触媒研究の世界的権威である藤嶋氏に、研究内容や今後の展開について話を聞いた。

被引用数6000回以上!桁違いのインパクトで引用栄誉賞を受賞

―本日は、光触媒研究の第一人者であり、引用栄誉賞受賞者である藤嶋先生にお話を伺えて大変光栄です。これまで、引用栄誉賞の中からノーベル賞受賞者を多く輩出していることはご存知の通りだと思いますが、まず先生が受賞された理由について説明させてください。私どもは、引用栄誉賞受賞者の選出にあたり、いくつかの基準を設けています。まずひとつは、世界中に強いインパクトを与えた高被引用論文の著者かどうか。これは学術データーベース、Web of Science® Core Collectionを基に、被引用数が各分野の上位0.1パーセントにランクインする研究者の中から絞り込みます。また、ノーベル賞は被引用数が多いからといって選ばれるわけではなく、基本的発見や発明であるかも重視するため、引用栄誉賞も同様の基準で選出しています。藤嶋先生の場合、とにかく被引用数の数が桁違いに多い。科学の世界において、ひとつの論文が1000回引用されるだけでも非常に珍しいのに、先生のように6000回を超える論文は例外中の例外です。引用情報をインデックス化してきた113年の歴史の中で、1億5000万以上の論文を収録していますが、これほどのインパクトを誇る論文はなかなか見当たりません。さらに、先生は光触媒の発見者として世界の第一人者として知られている。このため、我々は先生が受賞者に選ばれたことを当然のことと考えています。

Web of Science Core Collectionで見る藤嶋氏の論文データ。1972年にNatureに発表された論文” ELECTROCHEMICAL PHOTOLYSIS OF WATER AT A SEMICONDUCTOR ELECTRODE”は、2013年8月現在7000回近い被引用数を誇る。

Web of Science Core Collectionで見る藤嶋氏の論文データ。1972年にNatureに発表された論文” ELECTROCHEMICAL PHOTOLYSIS OF WATER AT A SEMICONDUCTOR ELECTRODE”は、2013年8月現在7000回近い被引用数を誇る。

常識を覆す酸化チタン光触媒の大発見

―先生は、1967年、大学院生のときに、「酸化チタンによる水の光分解(ホンダ・フジシマ効果)」という素晴らしい発見をされました。発見に至った経緯について教えていただけますか?

藤嶋氏…今から45年ほど前、世間は高度経済成長真っただ中で理系ブームでした。私は、1966年に横浜国立大学工学部電気化学科を卒業した後、研究に日夜没頭する諸先輩方の姿に憧れて、私自身も科学者をめざすべく東京大学大学院で写真化学、光化学の研究をしていた菊池真一先生の研究室に入りました。そして、菊池研で助教授をしていた本多健一先生(後の東京大学名誉教授)の指導のもと、水の中に色々なものを入れて光を照射したらどうなるかという酸化物半導体材料の研究にひたすら取り組んでいました。

ホンダ・フジシマ効果を実証する水の分解実験。光だけで水が分解する。

ホンダ・フジシマ効果を実証する水の分解実験。光だけで水が分解する。

―この研究はどのようなきっかけで始められたのですか?

藤嶋氏…当時、パリ大学に留学していた本多先生から、銀を酸性溶液中に入れて紫外線をあてると起電力が生じる「光ベクレル効果」という現象が面白そうだとテーマを貰ったのが始まりです。当時、酸化亜鉛や硫化カドミウムなどの半導体物質を電極にして水溶液中に入れ、光をあてると反応する現象が起きることは既に分かっていました。そこで、半導体にターゲットを絞り実験を続けていましたが、シリコンやゲルマニウムの単結晶は、光をあてると表面がガサガサになって溶けてしまいます。そこで、なにか光に応答する新しい半導体はないかと探し回っていたところ、隣の研究室でゼロックスの複写機の研究をしていた先輩の飯田武揚さん(後の埼玉大学教授)が酸化チタンの単結晶を使っていました。酸化チタンの結晶は無色透明で、酸にもアルカリにも溶けず、化学的に安定な材料でしたので、酸化亜鉛や硫化カドミウムと同じように光反応効果が期待できるのでは考えたのです。そこで、酸化チタンの単結晶を入手するため、先輩に製造元である神戸の会社、中住クリスタルを教えてもらい、思い切ってその会社の中住譲秀社長宛に手紙を書きました。すると、直接会ってくださることになり、酸化チタンの単結晶を使わせていただけることになりました。これが、私の研究人生で最大の幸運だったかも知れません。

酸化チタンの単結晶を入手し、早速実験に取りかかったものの一筋縄ではいきませんでした。酸化チタンの単結晶は非常に硬くて切るのも一苦労。東大に1台しかなかったダイヤモンドカッターを物性研究所で借りて、硬い単結晶を薄く切断し、それに導電性を増やす処置や銅線につなぐための工夫をして、ようやく電極を作り上げました。この電極を電解液中に入れて500Wのキセノン・ランプの光をあてたところ、表面からブクブクと泡が出始めたんです。分析すると酸素であることが分かりました。しかも、シリコンやゲルマニウム、酸化亜鉛などは光をあてると表面が溶けてしまうのに、酸化チタンはピカピカのままだったんです。念のため、電極の重さを測ってみたところ、実験前と全く変わりませんでした。これは大変なことが起こった、と興奮しましたね。水の中の酸素チタンに光をあてると酸素が出てくる。これが、葉っぱの表面で起こっている光合成反応のプロセスに近いと気づいたのです。

―つまり、葉緑素と酸化チタンが同じ働きをしていると!?

藤嶋氏…その通りです。ところが、この成果を意気揚々と学会で発表したところ、見向きもされませんでした。「水の電気分解で酸素や水素を発生させることはできるが、お前は電圧を掛けていない。光をあてているだけじゃないか」。当時は、光がエネルギーとして可能性を持っているとはほとんどの人が思わなかったんです。特に、電気分解をしている人には理論値があって、水の電気分解をするには最低1.23ボルトの電圧をかけるのが常識。光をあてるだけで水を分解できるなんて信じられなかったのでしょう。電気化学会や日本化学会でも発表しましたが、どこにいっても厳しい批判の嵐。さすがに私も、自分が間違っているのかと不安になりましたね。

A. Fujishima, K. Honda Nature (1972)

A. Fujishima, K. Honda Nature (1972)

―それだけ画期的な発見だったのですね。学会発表はいつ頃ですか?

藤嶋昭氏

藤嶋氏…1968年です。学会発表だけでなく論文も書きました。最初は1969年に日本語で、その後、1971年に英語で書き、それぞれ専門のジャーナルに掲載してもらうことができました。後にアメリカに留学したとき、私が日本語で書いた論文を皆が訳して読んでいるのを知って嬉しかったですね。
一方、国内は相変わらず批判的で、博士論文の審査会でも5人の審査員のうち1人の先生が断固反対。こんな間違った発表をする奴にドクターなどやれないといわれ、最終的に、毎週通って実験で証明するという条件付きでやっと博士号をもらえました。そして、ちょうど審査会と同時期に神奈川大学で講師の公募があったので応募したところ、倍率15倍ながら採用してもらえて、幸運にもすぐに研究室を持ち、スタートを切ることができたのです。

―ますます研究に打ち込める環境が整ったわけですね。国内では、なにをきっかけに認められたのですか?

藤嶋氏…『Nature』の論文です。私は、神奈川大学で研究を進める傍ら、この成果をまとめた論文を投稿しました。やはり、サイエンスの世界では、世界的に権威ある論文誌に研究成果が掲載されることは大きな評価に繋がります。通常、これほどの一流誌になると、ダメ出しの連続で、何度もの修正のやり取りをしてやっと掲載にこぎつけるのですが、私が出した論文は、ひとつのクレームも付かずに一度で通ったんです。これには驚きました。そして、1972年7月号の『Nature』に論文が掲載されると、まず海外で「ホンダ・フジシマ効果」が認識され、さらに1973年秋のオイルショックをきっかけに、石油に変わるクリーンエネルギーとして水素エネルギーを活用していこうという声が高まり、ヨーロッパやアメリカで一躍脚光を浴びるようになりました。これが日本にも逆輸入され、1974年、朝日新聞元旦の一面に大々的に「太陽で“夢の燃料”/水中の半導体に光あて水素ガスを摂取/日本科学者発見の原理に脚光」と報じられ、一気に熱い注目を集めるようになりました。そっぽを向いていた周囲の人々の態度も一変、学会発表などは常に満員状態です。「凄いことやったな!」と皆が認めてくれるようになりました。このとき、広報の力は大きいと実感しましたね。

デービッド・ペンドルベリー

我々の論文発表は、エネルギー問題の解決に大きく貢献するものと多くの期待が寄せられました。それに応えるべく、次はより実用化に近い研究をしようと、コストの高い酸化チタンの単結晶ではなく、チタン板をバーナーであぶって表面に酸化チタンの皮膜をつくり、本郷キャンパスの屋上に敷き詰めて水素を採取する実験を行いました。すると、1日7ℓと量は少ないものの、安価かつ1年以上メンテナンスフリーで水素を取り続けられることが分かったのです。この成果は、シンプルでとても分かりやすいと高く評価され、現在も、お台場の科学未来館や神奈川サイエンスパーク内の光触媒ミュージアムに展示していただいています。しかし、一方で、1日7ℓの摂取量及び酸化チタンは太陽光の3%しか吸収できないという結果はエネルギー変換効率が低すぎることから代替エネルギーとしては難しいという判断をしました。私は、この成果を1975年の『Journal Electrochemical Society』で発表した後、ひとつの大きな区切りとして、水の分解による代替エネルギーの研究から、水を分解できるほどの強い酸化力を使った応用へと舵を切りました。光触媒によるエネルギー生成の研究は、それ以降も、世界中の研究者が酸化チタンを改良したり、代わりに酸化タングステン、あるいはもっと他のものを入れるなどして成果を出そうと研究に励んでいますが、今のところ、この1975年の成果以上のものは出ていないようです。

―先生のご研究は、その後、どんな方向に進んでいったのですか?

藤嶋氏…代替エネルギーの研究から一旦離れ、水を分解できるほどの強い酸化力を応用して、殺菌や消臭という環境問題の分野で光触媒の研究を進めました。1989年、私は東大の教授になっていたのですが、岡崎国立共同研究機構で光触媒の研究を行っていた橋本和仁君(現東京大学大学院教授)を講師として迎えて以降、彼の豊かなアイデアのおかげで応用研究は飛躍的に広がっていきます。ふたりで企業と交渉しながら製品をどんどん生み出し、少しずつ実用化されるようになっていきました。さらに応用研究を進めていく中で、酸化チタンでコーティングしたガラスに光を照射すると、表面についた水が全面に広がっていく「超親水性」の効果を発見します。これにより湿気などでも曇らないガラスが生まれ、この技術は、今では外装建材や車のサイドミラーなどに利用されるようになりました。このように、光触媒は着実に世の中に広がっていっています。

光触媒が利用される一例

光触媒が利用される一例

―まさに基礎研究から応用に、そして商品化し、さらに盛り上がったというサイクルですね。引用データから見ても、特に近年、光触媒に関する論文が急増しています。なぜこれほどまでに先生の研究が注目されているのでしょう?

1965年~2012年の論文数年次推移(Title : TiO2 or Titanium dioxide) Web of Science Core Collection(2013.10時点)

1965年~2012年の論文数年次推移(Title : TiO2 or Titanium dioxide) Web of Science Core Collection(2013.10時点)

藤嶋氏…前述したように、光触媒技術は、太陽光の自然エネルギーだけで水素ガスが確保できたり、その酸化力を利用して消臭、防汚効果が得られたり、太陽電池としての応用が可能だったりと、時代のニーズに合った環境技術だからだと思います。現在は、私の研究をベースに、応用開発が急速に進められています。

研究者としてのミッション

―長い期間をかけて研究開発を行い、30年後にやっと実用化が実現するのですね。基礎研究の資金繰りはどうされていたのですか?

藤嶋氏…それは研究を続ける上で大切なことのひとつです。研究資金を確保するためには、研究者としてはアウトプット、つまり研究業績が大事です。しかし、もっと重要なのはアウトカムです。その現象を使って世の中の役に立ち、さらに大きな広がりをもたらせられるかどうか。ですから、研究者たるもの、アウトプットは休みなく続けなければなりませんが、最終的には、研究が本当に世の中で役立つものにしなければいけない。私の研究の最大の目的は、人類にとって一番大切な“天寿をまっとうすること”をサポートすることです。天寿とは、与えられた人生を、快適に、健康に、エネルギーを持って送ることです。それを少しでもサポートすることが私たち研究者の使命だと思っています。私は光触媒を研究してきたことで、空気や水をきれいにでき、殺菌ができ、エネルギーを生み出すこともできる。あるいはCO2を還元したり、燃料にすることもできる。様々な活用が期待できる光触媒は、素晴らしい材料です。

今秋には国際的な標準化も視野に

―光触媒は、近年、特に中国で盛んに論文が出ています。こちらがWeb of Science Core Collectionで調べた先生の論文を引用している国別のリストです。日本も多いですが、やはり中国からの引用が一番多い。次にアメリカ、ドイツ、韓国と続いています。これを見るだけでも各国で活発な研究が進められているのが分かりますが、光触媒の標準化についてはどのようにお考えですか?

藤嶋氏の論文を引用している論文の国別トップ10リスト Web of Science Core Collection(2013.10時点)

藤嶋氏の論文を引用している論文の国別トップ10リスト Web of Science Core Collection(2013.10時点)

藤嶋氏…標準化は、光触媒を実生活に実現する上で非常に重要です。まがい物を減らし、本物を作らなければいけませんから。JIS(日本工業規格)においてはすでに、水処理、セルフクリーニング、雑菌処理など10項目以上を作っています。ISO(国際標準化機構)に関しても、経済産業省の助けをうけ私が設計者兼責任者となり提案書を作りました。それをISOに持っていき、2013年秋でほぼすべて確定する予定です。

―これが確定すれば、光触媒の技術がますます世界に浸透していきますね。やはり知的財産は大事だとお考えですか。

藤嶋氏…ええ、正しい技術を守るためにとても重要です。私も、東陶機器株式会社(現TOTO)と一緒に酸化チタン超親水性の基本特許をはじめ、たくさんの特許を持っています。

光触媒分野の今後の展開

―これは、トムソン・ロイターが提供する“HistCite”(ヒストサイト)というソフトウェアのプログラムです。論文同士の引用関係を分析して論文の相関関係を見られるツールです。先生の1972年の論文と1998年の論文を見ると、この丸のサイズが引用を示していて、それぞれ別のクラスターが形成されています。つまり、先生のご研究からふたつの領域があると考えられるのですが……。

HistCiteで見る藤嶋氏の論文。1972年の論文(”Electrichemical Photolysis of Water at a Semiconductor Eldctrode”, NATURE)と1998年の論文(“Electrochemical behavior of highly conductive boron-doped diamond electrodes for oxygen reduction in alkaline solution”, JOURNAL OF THE ELECTROCHEMICAL SOCIETY)がそれぞれ別のグループを形成している

HistCiteで見る藤嶋氏の論文。1972年の論文(”Electrichemical Photolysis of Water at a Semiconductor Eldctrode”, NATURE)と1998年の論文(“Electrochemical behavior of highly conductive boron-doped diamond electrodes for oxygen reduction in alkaline solution”, JOURNAL OF THE ELECTROCHEMICAL SOCIETY)がそれぞれ別のグループを形成している

藤嶋氏…今時点の我々の研究は、まさにこのふたつの領域を一緒にすることを目指しています。一番大事なのは、太陽エネルギーを使って、二酸化炭素を還元して燃料にすることですが、同時に光触媒の応用として、酸化チタンやダイヤモンドの特性を活かした応用研究も進めていきます。特に、ダイヤモンドは様々な新規機能の可能性を秘めています。新しい機能材料であるダイヤモンド薄膜を用いて、新規な機能界面や光界面を構築し、その基礎的過程を明らかにするとともに、実際の応用まで視野に入れた研究を進めています。

―ふたつの領域を改めて統合し、発展させるのですね。どのようなコラボレーションが産まれるのか楽しみです! 最後に、先生のこれからの夢をお聞かせください。

2013年4月にオープンした光触媒国際研究センター

2013年4月にオープンした光触媒国際研究センター

藤嶋氏…夢ですか、直近では、4月にオープンした「光触媒国際研究センター」で面白い研究や発見をすることです。色々興味があるのですが、まずは自動車への応用です。光触媒を活用すれば、冬の車のガラスの曇りを防ぐことができる可能性があります。また、センターの中の植物工場で溶液栽培実験で、農業への応用もできそうだと分かってきました。普通、溶液栽培では成長抑制剤が植物から徐々に出てきますので溶液を3カ月に1回程度取り替えなければいけません。しかし、光触媒の自浄能力でこれらの成長抑制剤が分解できますので経済的で非常にエコな水栽培環境をつくることができます。センターではこれまで野菜で実験してきましたが、最近は薬草の専門家もメンバーに加わり、薬草作りを始めました。世の中には、朝鮮人参以外にも高価で価値のある薬草がたくさんあります。また、薬草の元であり、より付加価値の高い“種”を作っていく実験にも取り組んでいきます。そのほか、医学トリートメントという分野にも光触媒技術を広げられそうです。既に30年ほど前から医学部の先生方と共同で研究をしていますが、酸化チタンの粉をがん細胞に入れ、光を照射してがんを治癒する装置を作りました。医療機器は特許申請が非常に大変なため、なかなか実用化まで結びつきませんが、今後も研究を続けていきたいと考えています。さらに、今、歯科医と共同で、光をあてると虫歯が軽減したり、歯のホワイトニングができたりという応用研究も取り組んでいます。このように光触媒には大きな可能性がありますので、企業や海外の研究者などにもどんどん参加していただきたいです。この研究は日本が世界をリードしていますし、その日本の中でも、この「光触媒国際研究センター」がメッカとなって、世界中に情報発信し、光触媒の普及・発展をリードしていこうと考えています。

葛飾キャンパスにて

葛飾キャンパスにて

―面白そうな研究ばかりでワクワクします。ぜひ、またお話を伺わせてください。それにしても先生は学長としての業務やご自身の研究で大変お忙しいのに、学会のみならず一般向けの講演や本の執筆まで本当に幅広く手がけられていらっしゃいますね。最近は理科離れが問題になっていますが、こうした活動はすべて理科を好きになってほしいというお気持ちからですか?

藤嶋氏…ええ、いかに理科好きを増やすか。それは日本にとって最も大切なことです。日本は科学技術でしか生きていけない国です。したがって、科学技術に携わるリソースを増やさなければいけない。それには理科好きを増やすことが一番です。今、光触媒は、中学、高校の教科書に載るまでになりました。日本中の中学生、高校生が光触媒のことを知ってくれている。これはもう最高に嬉しいことです。

―どうもありがとうございました。今後のさらなるご活躍を心より応援させていただきます!

(2013年10月掲載)


藤嶋 昭(ふじしま・あきら)氏

プロフィール
【略歴】  
1966年3月 横浜国立大学工学部卒業
1971年3月 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了
1971年4月 神奈川大学工学部講師
1975年11月 東京大学工学部講師
1978年4月 東京大学工学部助教授
1986年7月 東京大学工学部教授
1995年4月 東京大学大学院工学系研究科教授
2003年4月 (財)神奈川科学技術アカデミー理事長
2003年4月 JR東海機能材料研究所所長
2003年6月 東京大学名誉教授
2005年1月 東京大学特別栄誉教授
2006年3月 日本化学会会長
2008年1月 科学技術振興機構(JST)中国センター長
2010年1月 東京理科大学長(現在に至る)
【現在】  
川崎市科学教育アドバイザー、光機能材料研究会会長、
(財)神奈川科学技術アカデミー最高顧問、東京応化科学技術振興財団理事長
主な受賞
1983年 朝日賞
1998年 井上春成賞
2000年 日本化学会賞
2003年 紫綬褒章
2004年 日本国際賞
2004年 日本学士院賞
2004年 川崎市民栄誉賞
2006年 恩賜発明賞
2005年 神奈川文化賞
2010年 川崎市文化賞
2010年 文化功労者
2011年 The Luigi Galvani Medal
2012年 トムソン・ロイター引用栄誉賞